第4回 キッス国際交流事業報告―バリ、パースを訪問、環太平洋で交流深める―

第4回キッス国際交流事業報告(2012.11/20〜11/27、バリ・パース)


1.バリ・パース訪問の経緯
 2009年に始まったキッス国際交流事業も今回で4年目を迎えました。着物や小物を持参した1年目(訪問者5名)、川内村産手打ち蕎麦で国際交流をして食文化を伝えた2年目(訪問者11名)、被災した私たちに何度も支援の手を差しのべてくださったママたちへお礼を述べ、パース日本人学校で震災の報告をした3年目(訪問者6名)に引き続き、今年はバリとパースへ出かけました(訪問者9名)。震災後、パースへの直行便がなくなり、前回は香港にトランジットしましたが、今回はバリに2泊しました。
 バリでは、バリ日本語補習授業校を訪問して、授業を参観させていただきました。日本とインドネシアをつなぐ架け橋となる子どもたちの教育事情を視察し、校長先生のお話を伺ううちに、5年目の事業を方向付ける展開となりました。
 パースでは、総領事公邸で開催された「アジア太平洋地域及び北米地域との青少年交流(キズナ強化プロジェクト)」の壮行会で蕎麦打ちを披露して、震災支援の御礼をスピーチした後、できたての蕎麦を味わっていただきました。また、前年、ママたちから日本語を子どもたちに伝えるための読み聞かせ用絵本があればという意見をヒントに絵本を持参し、贈呈しました。
 関連http://www.theperthexpress.com.au/contents/news/179.php(パースエクスプレス
 Vol.179 2012年12月号)

2.ツアーの日程
 11月20日(火)成田発、デンパサール着
 11月21日(水)バリ日本語補習授業校訪問、寺院見学、民族舞踊鑑賞
 11月22日(木)デンパサール発、パース着
 11月23日(金)在パース日本国総領事公邸にてキズナ強化プロジェクト壮行会で震災支援
         御礼スピーチと蕎麦交流
 11月24日(土)ブティックワイナリー巡り
 11月25日(日)港町フリーマントル見学
 11月26日(月)パース発、デンパサール着・発
 11月27日(火)成田着

3.バリ日本語補習授業校訪問(11月21日)
 バリ島には、日本人の血を受け継ぐたくさんの国際児童が暮らしており、バリ日本語補習授業校には、300名近くの園児や児童・生徒が在籍しています。子どもたちは、地元の学校に通っていて、帰宅後、4時〜6時日本語補習授業校に来て国語や算数(数学)を学びます。私たちが訪問した日、元気一杯「まっかな秋」の詩の朗読をし、歌っていました。授業終了後、ピロティに集まり、斎太郎節を披露してくれました。東北から来た私たちのためにわざわざ準備したのではなく、予定されていた歌だと聞いて、節回しや掛け声が難しいのにと、感心しました。

 授業参観後、会議室で校長先生のお話を伺いました。

世界第4位の人口を背景に、インドネシアの経済は成長がめざましく、多くの日本企業が進出しています。当然、日本語とインドネシア語、さらに両国の文化を身につけている人材が必要とされ、日本語補習授業校の果たす役割は今後ますます重要となっていくでしょう。「遠く母国を離れて暮らしている私たちと日本は“へその緒”でつながっています。日本のみなさんの温かい気持ちは、何よりの励みになります」と私たちの訪問と支援を心から歓迎してくださいました。「これからパースに行って、蕎麦打ち交流をするんです」と私たちの予定を説明したところ、バリでも蕎麦打ちができたらいいなと会話がはずみ、川内村の新妻議員が、「じゃあ、来年来ます」と公約して、トントン拍子に話がまとまりました。

 私たちの提案を受けて、補習校を経営している維持会に諮り、バリ日本語補習授業校での蕎麦打ち交流について検討していただくことになりました。

4.在パース日本国総領事公邸にて蕎麦打ち交流(11月23日)

 在パース日本国総領事公邸にて、キズナ強化プロジェクトの壮行会で、高校生33名とその保護者、政府関係者・総領事館職員などに手打ち蕎麦を振舞いました。キズナは、東日本大震災の被災地に赴き、視察やボランティア活動を行うプロジェクトで、福島班は、会津と北塩原に行くとのことでした。壮行会は17:30開始で、70名分の蕎麦を準備するため、キッチンでドンドン茹で上げ、盛り付け。蕎麦打ちのプロ、セミプロ、ノンプロそれぞれ阿吽の呼吸で、空気を読み取りながら短時間のうちに準備しました。プロジェクトのオリエンテーション終了後、キッチンには参加者が次々見物に来ました。会場設営後、イベントホールに移動して実演。日本からそば粉や打ち粉、麺つゆなどを持ち込み、汗だくで終了した時は呆然自失。総領事からご馳走になった打ち上げのお酒の味も忘れるくらいでした。

 参加者のみなさんに喜んで賞味していただきましたが、震災の影響はまだまだ尾を引いていました。川内村特産の蕎麦は放射能の影響で栽培できず、打ち慣れている蕎麦粉ではないため、蕎麦職人の新妻さんは何度もリハーサルされたとのことでした。また、震災支援の御礼をスピーチした新妻議員は、これから日本に送りだす高校生の保護者たちを不安に陥れないように、言葉を慎重に選んだとのことでした。善意に支えられ、復興に向かって歩き出した福島を見てほしい、その一念で、溢れる思いを語られたのでした。
 蕎麦交流会の後、絵本の贈呈式を行いました。前年の報告会で、ママたちが子どもたちに日本語を伝えるために、日本語の絵本が図書館にあれば読み聞かせできるのにという意見があったので、『ももたろう』や『いっすんぼうし』など、20数冊の絵本やかるたを総領事にお渡ししました。絵本を有効に活用していただいて、日本の心を子どもたちに種蒔きし、豊かな国際人として成長していく手助けとなればと、私たちの夢はふくらみます。
 

日本の文化を見直してくれたワンガリ・マータイさんの提案に触発されて、衣文化から始まった私たちの活動は、食文化、児童文化へと広がってきました。遠く離れていっても、祖先が築いてきた日本の文化を母から子へ子から孫へと伝えていきたいと願う親の気持ちと、母国から離れて暮らしていても、“へその緒”でつながっていると思う人々の気持ちは共通していると思います。

5.帰国して
 1週間に2つの大きなイベントで3つの活動(バリ日本語補習授業校訪問、在パース日本国総領事公邸にて蕎麦打ち交流と絵本の贈呈)を盛り込み、さらにその1カ月後の12月23日、天皇誕生日祝賀レセプションで福島県PRブースを開設させていただきました。(林さん母娘担当、1月17日のキッスのブログ参照)。4つの活動を終えてつくづく感じたのは、新妻さんの口癖、「やってみなければわからない」ということでした。リサーチし、イマジネーションをフルに働かせて、行動することで次の課題が見えてくる。思いは行動することで進化する。ありのままで、できる人ができる時にできることを行って蕎麦のように細く長く続けて行く。事前・実行・事後の、1粒で3度美味しいバリ・パースツアーでした。もちろん、現地を楽しむ、仲間と交流を深める、写真や映像、ブログなど記録に残して他の人と感動を共有する、国際親善の輪を広げるなどの副産物もついてきました。
 パース在住の若い日本人のパパ・ママたちを応援しようとスタートした私たち。突然、震災から応援される立場に逆転しました。たくさんの支援を海外からいただくきっかけにもなり勇気と元気をいただきました。
 今回の成果は、他のキッスメンバーとともに、福島大学公開講座「国際交流と市民活動〜人と人とのつながり〜」で公表させていただきます。5/18「インドネシア・オーストラリアとの交流とドイツ・アメリカからの支援活動について」(林さん) 、5/25「フィリピンとの交流からつながった福島大学学生たちの活動」(菅野さん) 、6/1「インターネットでつながる震災後の支援と情報交流〜アメリカ、フランス、福島の実態から〜」(藍原さん)の3回で、いずれも土曜日の13:30〜15:00、福島市の「街なかブランチ舟場」にて。お時間がありましたら、是非いらしてください。(問合わせ先:024-548-5211)
 5年目の事業として、バリ日本語補習授業校での蕎麦打ち交流を中心とした海外ツアーの検討が始まっています。